猫の平均寿命が延びるにつれて、シニア期特有の病気にかかる機会も増えてきました。その中でも特に多くの飼い主様を悩ませているのが、「慢性腎臓病(CKD)」です。
慢性腎臓病は進行性で完治が難しいという特徴がありますが、早期に発見し、適切に管理することで進行を抑え、QOL(生活の質)を維持することが可能です。これまででは治療法が限られていましたが、近年では再生医療などの新しい選択肢が登場し、希望の幅が広がりつつあります。
今回は、猫の慢性腎臓病についてわかりやすく解説しながら、最新の治療法についてもご紹介します。
腎臓は、体内の老廃物を尿として排出したり、水分やミネラルのバランスを保ったりと、生命を維持するうえで欠かせない働きを担っています。猫が高齢になると、この腎機能が徐々に低下し、「慢性腎臓病」と診断されることが増えてきます。
高齢猫では特に多く見られる病気ですが、原因は加齢だけではありません。例えば、細菌やウイルスによる感染症、中毒、尿路結石や閉塞、遺伝的な体質、高血圧などの持病も腎臓にダメージを与え、慢性腎臓病を引き起こす要因となることがあります。
また、腎臓は「予備力が高い臓器(機能の一部が失われても残った部分で補うことができる)」であるため、機能が70%以上低下していても症状が現れないことが多く、気づいたときにはかなり進行しているケースも珍しくありません。
初期の段階では目立った症状はほとんどありませんが、少しずつ次のような変化が見られるようになります。
・水をたくさん飲む
・トイレの回数が増える
・食欲が落ちる
・体重が減る
さらに進行すると、次のようなより際立った症状がみられるようになります。
・嘔吐する
・口臭が強くなる
・被毛のツヤがなくなる
・元気がなくなる
しかし、これらのサインはご家庭ではなかなか気づきにくいので、シニア(7歳以上)の猫は年に1回以上健康診断を受け、血液検査で腎臓の数値をチェックすることをお勧めします。
具体的には、BUN(血液尿素窒素)、Cre(クレアチニン)、SDMAといった項目が腎機能の評価に役立ちます。あわせて、尿検査で尿比重や尿タンパクの有無を確認することも、早期発見につながります。
現時点での治療法は「対症療法」が中心で、腎機能の回復ではなく、進行を遅らせて生活の質を守ることが主な目的です。具体的には次のような選択肢が挙げられます。
・食事療法
腎臓病用の療法食を与え、リンやタンパク質の摂取量を調整します。
・水分補給の工夫
慢性腎臓病では脱水症状が起こる危険性があるので、水分摂取はとても大切です。ご家庭では、水飲み場を増やす、常に新鮮な水を用意する、ウェットフードを活用する、といった工夫がポイントになります。
・皮下輸液
脱水を防ぐため、輸液によって水分を補います。一般的には病院で処置しますが、状態によってはご自宅での実施も可能です。
・薬物療法
高血圧や貧血などの合併症に対して薬を使用します。
従来の治療法では限界がある中で、最近では新たな選択肢として「再生医療」が注目されています。特に猫の慢性腎臓病に対しては、間葉系幹細胞(MSC)療法が利用されます。
この治療法は、幹細胞がもつ抗炎症作用(炎症を鎮める作用)や組織修復促進効果(傷を治す効果)を活かして、慢性腎臓病のような進行性の病気による症状を和らげたり、QOLを改善させたりするものです。
実際にMSC療法を受けた猫の中には、腎機能(ろ過機能)の数値が改善したケースも報告されています。ただし、MSC療法は単独での効果を保証するものではなく、従来の治療法と組み合わせることで、より良い結果が期待される治療法です。
「間葉系幹細胞(MSC)療法」についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
愛猫が慢性腎臓病と診断されたら、日常生活では次のような工夫が役立ちます。
・ストレスの軽減
トイレや寝床は人通りが少ない場所に配置する、快適な温度・湿度を保つなどが重要です。
・生活リズムを整える
急激な環境変化によるストレスを防止しましょう。
・投薬や処置は手早く・やさしく
愛猫の負担を減らすため、処置は短時間で終えるとよいでしょう。
・こまめな体調チェック
体重や食欲、排泄の状態などを日常的に記録して、変化にすぐ気づけるようにしましょう。
猫の慢性腎臓病は残念ながら完治が難しい病気ですが、早期に発見し、適切な治療と日常管理を行うことで進行を抑え、快適な生活を維持できる可能性が高まります。
最近では、再生医療である間葉系幹細胞療法(MSC)という新しい選択肢も登場し、腎機能の改善が期待できるケースも報告されています。これまで治療に限界を感じていた飼い主様にとって、希望を持てる新たな道となるかもしれません。
当院でも、慢性腎臓病に関するご相談をいつでも受け付けています。最新の治療法を含めた選択肢をご提案できるので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
<参考文献>
原田佳代子. 6.慢性腎臓病. In: 犬と猫の腎臓病診療ハンドブック. 上地正実 監修. 2021 : pp.104-123. 緑書房.
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