再生医療って効果があるの？ ペットのQOL（生活の質）の向上を判断します！

これまでの記事では、ペットのがんや慢性疾患（長期にわたって続く病気）に対して、再生医療が効果を発揮するとご紹介してきました。ですが、この治療法は実用化されてから日が浅いため、あまり知られておらず、また従来のものとは違った方法で治療に結び付けるため、「本当に効果があるの？」「気のせいなんじゃないの？」というご意見をいただくこともあります。

そこで今回は、再生医療の効果を確認する指標として「QOL」という言葉を説明したうえで、実際に効果があった事例もご紹介します。

※再生医療とは、「傷ついたり、元気がなくなったりした体の一部を元の健康な状態に戻して、病気を治す」新しい治療法です。特に、がんや慢性疾患に悩むペットに対して利用されることが増えています。
再生医療が何か詳しく知りたい方はこちら

◼️目次
1.効果の判断の仕方
2.QOLとは？
3.QOLの評価方法は？
4.再生医療の効果があった事例
5.まとめ

効果の判断の仕方

治療の効果をどうやって判断するのか、わかりにくいと感じる方も多いかもしれません。

根治（完全に治って病院に行かなくてもよい状態）や寛解（再発の可能性はあるものの、症状が消えて検査結果に異状がない状態）などであればわかりやすいのですが、全ての病気で当てはまるわけではありません。

がんや慢性疾患の場合、完全に治すことは難しいこともあります。そのため、症状を和らげてペットが少しでも快適に過ごせるようにすることを目指す治療もあります。そういった場合、治療の効果を判断するために「QOL」という指標が使われます。

QOLとは？

QOL（Quality of life）は「生活の質」とも訳され、ペットの心身の健康状態を表す指標として、動物だけでなく人の医療でも使われています。

具体的に、QOLが高い（向上した）、QOLが低い（低下した）、などと表現されます。QOLが高い（向上した）とは、　ストレスや痛み、苦しみが少なく、愛犬や愛猫が自分らしく快適に過ごせる状態を指します。反対に、QOLが低い（低下した）とは、痛みやストレスが多く、病気になる前のような生活が難しい状態です。

ペットにとってQOLが向上することは、単に病気を治すだけではなく、毎日の生活がより快適で楽しいものになることを意味します。例えば、痛みが和らぐことで、再び散歩や遊びを楽しむことができるようになり、飼い主様との時間も豊かになります。

QOLの評価方法は？

QOLは一見、主観的な評価方法のように思えますが、実はとても客観的です。

特に犬のQOL評価では「CHQLS-15（犬の健康関連QOLについての15項目調査）」がよく使われます。これは、4つの領域に分けられた15の項目について、飼い主様に5段階で評価していただくものです。ペットが病気になる前の状態を「3」とし、それに近いかどうかで健康状態を判断します。すなわち、平均値が3以上であれば、病気になる前とほぼ同じ状態であると言えます。

再生医療の効果があった事例

再生医療の一つである「活性化リンパ球（CAT）療法」を受けた犬のがん患者58頭を対象にした調査があります。この調査では、58頭を「CAT療法のみを受けたグループ（20頭）」と「外科手術または放射線治療後にCAT療法を受けたグループ（38頭）」に分け、CAT療法の治療前と治療後のQOL（生活の質）を評価しました。
CAT療法についてはこちらをご覧ください

結果は、下の図の通りです。CAT療法のみを受けた犬のQOLスコアは、治療前の2.8から6回の治療後には3.5まで上昇しています。また、手術や放射線治療を行った犬のQOLスコアは治療前にすでに3.3でしたが、CAT療法を受けた後にはさらに3.6まで向上しました。

この結果から、「CAT療法が犬のQOLを向上させる」ことが客観的に示されています。

まとめ

今回は、再生医療の効果を測るためのQOLという指標についてお話ししました。再生医療は、従来の治療法では効果が見られなかった場合でも、ペットのQOLの改善が期待できる治療法です。当院では再生医療の知識・経験が豊富な獣医師が在籍し、専用の設備も充実しているので、気になることがあればお気軽にお尋ねください。

◼️再生医療が何かより詳しく知りたい方へ
・「再生医療って何？」という疑問に答えます！ペットのための新しい治療法を、簡単にわかりやすくご紹介。大切な愛犬・愛猫にどう役立つのか、ぜひチェックしてください。
再生医療ってすごい！｜ペットの治療をわかりやすく解説！

・ペット医療の最前線を知りたい方におすすめ！再生医療がどうペットの未来を変えるのか、具体的な事例と共に最新の治療法を詳しく解説しています。
ペットの未来を変える再生医療とは？┃最新治療法を解説！

・愛犬や愛猫ががんで悩んでいる飼い主様に読んでほしい内容です。再生医療によって、がん治療で新しい可能性が広がるかもしれません。詳しい内容はぜひこちらから。
犬や猫の「がん」で悩んでいませんか？再生医療の治療で悩みが解決できるかも！

・長期間続く病気でも再生医療で解決できるかもしれません。ペットが元気を取り戻す可能性に期待したい飼い主様に向けて、慢性疾患に対する再生医療の効果を詳しく説明しています。
愛犬や愛猫の病気で悩んでいませんか？再生医療の治療ができるかも！ ～慢性疾患編～

愛知県碧南市の動物病院「へきなん動物病院」
℡：0566-41-1128

＜参考文献＞
Development and validation of a survey for quality of life assessment by owners of healthy dogs – ScienceDirect. (Lavan R.P., Veterinary Journal 197: 578–582, 2013)
Quality of life-improving effect of autologous ex vivo expanded cytotoxic and opioid-producing lymphocytes for dogs with cancers – ScienceDirect. (Mitani K. et al., Veterinary Immunology and Immunopathology 238: 110292, 2021)