「再生医療って、本当に効果があるの?」
「インターネットで『怪しい』『意味がない』という意見を見て、不安になった…」
愛犬や愛猫ががんと診断され、少しでも良い治療法がないか調べる中で、このような情報を目にした飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
再生医療の一つである免疫細胞治療については、さまざまな意見があります。なかでも、私たちが耳にすることがあるのが、次のような言葉です。
「免疫細胞治療は、がんを患っているペットには効かず、飼い主に効く」
この言葉だけを見ると、「実際には効果がなく、治療を受けたことで飼い主様が安心しているだけなのでは」と感じるかもしれません。
確かに、免疫細胞治療だけで進行したがんを治すことは、非常に難しいと考えられています。しかし、それだけを理由に「意味のない治療」と言い切ることはできません。
今回は、「飼い主に効く」と言われる理由をひもときながら、免疫細胞治療によって期待される役割や、近年報告されている研究結果について解説します。

■目次
1.「免疫細胞治療は飼い主に効く」と言われるのはなぜ?
2.免疫細胞治療で大切にしているQOLの改善
3.免疫細胞治療はQOLだけではない|近年分かってきたもう一つの役割
4.樹状細胞(DC)療法とは?
5.免疫細胞治療は、今後も発展が期待される分野です
6.「怪しい治療」ではなく、適切な場面で検討する治療
7.へきなん動物病院では、その子に合った治療をご提案します
8.まとめ
がんを患った犬や猫には、元気や食欲がなくなる、痛みが出る、呼吸が苦しくなるといった変化が見られることがあります。
これまで楽しんでいた散歩に行かなくなったり、毛づくろいをしなくなったりして、横になって過ごす時間が増えることもあるでしょう。
そのような姿をそばで見守り、食事や排泄を手伝いながら通院を続ける飼い主様にも、身体的・精神的な負担がかかります。
「少しでも楽に過ごしてほしい」
「以前のようにごはんを食べてほしい」
「つらそうにしている時間を少しでも減らしたい」
そう願うのは、当然のことです。
免疫細胞治療によって犬や猫の元気や食欲が改善し、その子らしい行動が見られるようになれば、飼い主様の不安や負担も和らぐ可能性があります。
つまり、「飼い主に効く」という言葉は、単に飼い主様を安心させるだけの治療という意味ではなく、犬や猫の生活の質が改善することで、飼い主様にも前向きな変化がもたらされると捉えることもできます。
免疫細胞治療の一つである活性化リンパ球(CAT)療法やキラー細胞(KC)療法では、犬や猫自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増やして活性化させたあと、再び体内へ戻します。
活性化リンパ球(CAT)療法についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
キラー細胞(KC)療法についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
これらの治療は、がんを小さくすることだけを目的とするものではありません。犬や猫がその子らしく過ごせる時間を保ち、QOL(生活の質)の維持・改善を目指すことも大切な目的です。
免疫細胞治療を受けた犬や猫については、次のような変化が報告されています。¹
・元気に動くようになった
・食欲が改善した
・毛づくろいなど、普段の行動が見られるようになった
・苦しそうな様子が和らいだ
ただし、治療後の変化には個体差があり、すべての犬や猫に同じ効果が表れるわけではありません。
それでも、「少し食べられるようになった」「散歩へ行きたがるようになった」「家族と落ち着いて過ごせる時間が増えた」といった変化は、犬や猫だけでなく、そばで見守る飼い主様にとっても大きな意味を持ちます。
再生医療の効果についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
免疫細胞治療については、「QOLを改善することはあっても、がんそのものには作用しない」と思われることもあります。
しかし近年では、手術や抗がん剤、放射線治療などと免疫細胞治療を組み合わせることで、治療成績の向上につながる事実が報告されています。
例えば、研究では次のような治療を受けた犬において、生存期間の延長が報告されています。
・抗がん剤治療後にCAT療法を組み合わせたケース²
・手術後にCAT療法を継続したケース³
・放射線治療とKC療法を組み合わせたケース⁴
これらは免疫細胞治療だけでがんが治ったことを示すものではありません。
手術や抗がん剤、放射線治療などと組み合わせることで、免疫細胞治療が治療成績の向上に役立つ可能性が示されたということです。
がんの種類や進行度、研究の条件によって結果は異なるため、すべての犬や猫に同様の効果が期待できるわけではありません。また、再発や転移を確実に防げる治療でもありません。
それでも、手術後の再発や転移が心配な場合や、できるだけ良い状態を保ちながら治療を続けたい場合には、検討できる選択肢の一つになります。
免疫細胞治療には、活性化リンパ球(CAT)療法やキラー細胞(KC)療法のほかに、樹状細胞(DC)療法があります。
樹状細胞は、体内に異物や異常な細胞があることを見つけ、その特徴をほかの免疫細胞に伝える役割を持っています。
例えるなら、CAT療法やKC療法で働く免疫細胞が「がんと戦う兵士」だとすれば、樹状細胞は「攻撃する相手の特徴を兵士に伝える司令官」のような存在です。
樹状細胞療法では、がん細胞が持つ目印となる情報を樹状細胞に認識させ、免疫細胞ががん細胞を見つけやすくなるように働きかけます。
これにより、免疫細胞ががん細胞を攻撃する反応を引き出すことが期待されています。
樹状細胞(DC)療法についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
樹状細胞療法についても、単独で進行したがんを治すことは困難です。
早期の小さながんに対して良好な経過が得られた例もありますが、治療効果はがんの種類や進行度などによって異なります。
そのため、多くの場合は手術や抗がん剤などの治療を基本とし、必要に応じて樹状細胞療法を組み合わせます。
近年では、樹状細胞療法と抗がん剤を組み合わせた犬において、生存期間の延長が報告された研究もあります。⁵
樹状細胞療法もCAT療法やKC療法と同様に、単独でがんを治す治療ではなく、ほかの治療と組み合わせることで効果が期待される治療と考えることが大切です。
樹状細胞(DC)療法を行った症例についてはこちらをご覧ください
近年、人のがん医療では、免疫の力を利用した治療が大きく進歩しています。
その代表的なものが、2018年のノーベル生理学・医学賞にもつながった免疫チェックポイント阻害薬です。代表的な薬としてオプジーボ®が知られています。
がん細胞には、免疫細胞から攻撃されないように、免疫の働きにブレーキをかける仕組みがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除し、免疫細胞が本来の力を発揮できるようにする治療薬です。
獣医療においても、犬のがんを対象とした抗PD-L1抗体(人のオプジーボ®に相当する薬)の研究・開発が進められています。⁶
ただし、免疫チェックポイント阻害薬も、すべてのがんに効果が期待できるわけではありません。がんの種類や進行度、全身状態などによっては、十分な効果が得られない場合があることも分かっています。
そのため現在は、免疫チェックポイント阻害薬と従来の免疫細胞治療を組み合わせることで、より高い治療効果が得られる可能性にも期待が寄せられています。
免疫細胞治療は、今もなお研究が続けられている分野です。
インターネットでは、「再生医療は怪しい」という意見を目にすることがあります。
その背景には、「どのようながんにも効く」「必ず治る」といった、実際の医療とは異なる情報が発信されてきたことも関係しているのかもしれません。
しかし、現在の獣医療における免疫細胞治療は、単独で進行したがんを治す「魔法の治療」ではありません。
一方で、近年の研究では、次のような可能性が報告されています。
・QOLの維持・改善
・手術、抗がん剤、放射線治療などとの併用による生存期間の延長
・再発や転移を抑えることに関与する可能性
大切なのは、「効く治療」「効かない治療」と単純に分けるのではなく、その子の病状や治療の段階に合った選択肢かどうかを見極めることです。
へきなん動物病院では、すべての犬や猫に免疫細胞治療をおすすめしているわけではありません。
まずは、現在の病状やこれまでの治療経過、全身状態などを確認し、次のような点を総合的に検討します。
・手術が適しているか
・抗がん剤治療が適しているか
・放射線治療を組み合わせる必要があるか
・免疫細胞治療を取り入れる意義があるか
そのうえで、飼い主様のご希望も伺いながら、その子に合った治療方針を一緒に考えていきます。
また、再生医療に関する研究や新しい知見を確認しながら診療に取り入れています。
「手術後の再発や転移が心配」
「年齢や体力を考慮して治療を選びたい」
「現在の治療に加えて、ほかにできることがあるか知りたい」
このようなお悩みがある場合も、まずは現在の状態を確認することが大切です。
免疫細胞治療が適しているかどうかは、がんの種類や進行度、これまでの治療内容などによって異なります。「うちの子の場合はどうだろう」とお悩みの際は、まずはへきなん動物病院へお気軽にお電話ください。
お電話でのご相談・お問い合わせはこちら:℡:0566-41-1128
免疫細胞治療は、単独で進行したがんを治す「魔法の治療」ではありません。
一方で、QOLの維持・改善や、手術・抗がん剤・放射線治療などと組み合わせた場合の治療成績について、さまざまな研究が行われています。
再生医療は、「最後の手段」でも「必ず治る治療」でもありません。しかし、QOLの維持を重要視したときに、選択肢として検討に値する治療法です。
へきなん動物病院では、現在の病状やこれまでの治療経過を確認し、一般的ながん治療と免疫細胞治療をどのように組み合わせるべきかを検討します。
愛犬・愛猫のがん治療や、手術後の再発・転移について不安がある方は、お気軽にご相談ください。
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再生医療には、今回ご紹介したがんに対する免疫細胞治療のほかに、間葉系幹細胞(MSC)療法という治療があります。
MSC療法は、炎症や免疫反応を調整し、体にもともと備わっている修復の働きを支える治療です。どのような病気に用いられ、どのような効果や限界があるのかについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もあわせてご覧ください。
>>再生医療は怪しい?間葉系幹細胞(MSC)療法の効果と限界を獣医師が解説
〈参考文献〉
1. Mitani Y, et al. Veterinary Immunology and Immunopathology. 2021.
https://doi.org/10.1016/j.vetimm.2021.110292
2. Ochi F, et al. Scientific Reports. 2012.
https://www.nature.com/articles/srep00249
3. Mason NJ, et al. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2020.
https://academic.oup.com/jvim/article/34/5/2056/8448203
4. Aryankalayil MJ, et al. Journal for ImmunoTherapy of Cancer. 2017.
https://link.springer.com/article/10.1186/s40425-017-0305-7
5. Cell Death Discovery. Dendritic cell vaccine combined with chemotherapy prolonged survival in dogs with cancer.
https://www.nature.com/articles/s41417-019-0080-3
6. Maekawa N, et al. npj Precision Oncology. 2021.
https://www.nature.com/articles/s41698-021-00147-6
※本記事は、執筆時点で報告されている研究結果をもとに作成しています。免疫細胞治療の適応や期待できる効果は、がんの種類や進行度、これまでの治療内容、全身状態などによって異なります。
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℡:0566-41-1128