ペットのがん治療を諦めない最新医療！｜キラー細胞療法（KC療法）について

これまでの記事では、当院が力を入れている「再生医療」についての概要をご紹介してきました。今回はその中でも、「キラー細胞療法（KC療法）」に焦点を当ててお話しします。

この治療法は「免疫細胞療法」と呼ばれる治療の一種です。まず免疫細胞療法について簡単に説明し、その後、KC療法がどんな病気に効果があるのか、またどうやって治療を行うのかをご紹介します。

◼️目次
1.免疫細胞療法とは？
2.キラー細胞療法（KC療法）とは？
3.KC療法で治療効果が認められた病気
4.どのように治療するの？
5.副作用やリスク
6.まとめ

免疫細胞療法とは？

一般的に、病気の治療といえば「薬」や「手術」が思い浮かびますが、最近は「再生医療」という新しい治療法も注目されています。再生医療は、人間の医療ではいろいろな病気に使われており、ペットの医療でも少しずつ使われ始めています。
以前の記事でもお伝えしましたが、再生医療は大きく「免疫細胞療法」と「幹細胞療法」という2つに分けられ、KC療法は「免疫細胞療法」に分類されます。
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免疫細胞療法とは、病気で弱っている免疫細胞を体から取り出して、体の外で数を増やし、活性化させて元気な状態にしてから、また体に戻す治療法です。免疫細胞は体に入ってきた細菌やウイルス、がん細胞などをやっつける役割があるため、この療法はがん治療に役立つことがわかっています。

キラー細胞療法（KC療法）とは？

キラー細胞療法（KC療法）は、免疫細胞療法の一つですが、免疫細胞にはリンパ球、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞などの種類があり、KC療法では「ナチュラルキラー細胞（NK）」という免疫細胞を使います。

このナチュラルキラー細胞は、体の中で異常な細胞（がん細胞など）を見つけて攻撃する働きがあります。しかし、この細胞はそもそもの数が少なく、急速に増えるがん細胞には追いつけず、がんが進行してしまうことがあります。

そこでKC療法では、体内のナチュラルキラー細胞を取り出し、増殖・活性化因子（細胞の数を増やし、働きを強めるもの）とともに培養することで、細胞の数を増やすだけでなく、力を強めた「キラー細胞（KC）」に変化させます。

このKCをがん患者の体内に戻すことで、通常よりも効率よくがん細胞をやっつけることができ、再発や転移を抑える効果が期待されます。また、KC療法も患者のQOLを高めることができます。

KC療法で治療効果が認められた病気

KC療法は、特に犬の「口腔内メラノーマ（悪性黒色腫）」や「骨肉腫」などのがんに対して効果があると海外の研究で報告されています。
ただし、KC療法はまだ新しい治療法であり、日本では十分なデータがそろっていないのが現状です。しかし、少なくともCAT療法（活性化リンパ球療法）と同じがんに効果が期待できると考えられています。
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当院での経験として、腎臓に発生したがん（肉腫）を摘出した犬にKC療法を応用した例がありますが、術後7か月経った現在も転移はなく、生活の質（QOL）もよい状態を保っています。

どのように治療するの？

通常は1回の治療で、標準で11mL（cc）の血液を採ります。そして、約2週間かけて血液細胞中のナチュラルキラー細胞を増殖・活性化させ、その数を増やすとともにKCに変化させます。

最後に、得られたKCを点滴によってペットの静脈内に戻します。これを「1クール」として、通常は5〜6クールほど繰り返し、ペットの状態を見ながら治療を続けるか判断します。

副作用やリスク

治療後はまれに軽い発熱がみられますが、重篤な副作用は現在のところ報告されていません。また、ペット自身の細胞を使うので、拒絶反応の心配もありません。

まとめ

KC療法は、ナチュラルキラー細胞を使った再生医療の1つで、がんの再発や転移を防ぐ効果が期待されます。まだ新しい治療法ですが、当院では術後にKC療法を使うことで転移を防ぎQOLを保っている実績もあります。がん治療でお悩みの方は、ぜひご相談ください。なお、治療には1回あたり約10万円の費用がかかりますので、その点もご了承ください。

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再生療法（免疫療法）

愛知県碧南市の動物病院「へきなん動物病院」
TEL：0566-41-1128

＜参考文献＞
Radiotherapy enhances natural killer cell cytotoxicity and localization in pre-clinical canine sarcomas and first-in-dog clinical trial – PMC （Canter RJ et al. Journal for Immunotherapy of Cancer 5:98, 2017）
Blood and tissue biomarker analysis in dogs with osteosarcoma treated with palliative radiation and intra-tumoral autologous natural killer cell transfer – PMC （Judge SJ et al., PLoS ONE 15: e0224775, 2020）